Socket通信の基礎とWebSocketとの違い

[shuji-bonji]

Socket（ソケット）通信の詳細解説

Socketとは何か？

Socket（ソケット）は、ネットワーク通信を行うプログラム間でデータの送受信を可能にする通信エンドポイントです。言い換えると、「ネットワーク越しに他のプログラムと話すための窓口」と考えることができます。

基本概念

• エンドポイント: IPアドレス + ポート番号の組み合わせ
• 双方向通信: データの送信と受信が可能
• 抽象化レイヤー: 複雑なネットワークプロトコルを簡単なAPI呼び出しで利用可能

Socketは低レベル通信を可能にする柔軟な仕組みであり、システムレベルのアプリケーションや通信制御が必要な場面で多用されます。特に、マルチスレッド/マルチプロセスでの接続管理やイベント駆動型アーキテクチャとの相性も良く、さまざまな分野で利用されています。

OSI参照モデルにおけるSocketの位置

層	名称	説明・技術	Socket関連
7	アプリケーション層	HTTP, SMTP, FTP, DNS	アプリケーションがSocketを利用
6	プレゼンテーション層	SSL/TLS, 暗号化, データ変換	-
5	セッション層	セッション管理, 接続確立・切断	🟢 WebSocket
4	トランスポート層	TCP, UDP, ポート番号	🔴 Socket API
3	ネットワーク層	IP, ルーティング, IPアドレス	-
2	データリンク層	Ethernet, MAC, スイッチ	-
1	物理層	ケーブル, 電気信号, ハブ	-

重要なポイント

• Socket APIは主に**トランスポート層（第4層）**に位置
• TCP/UDPプロトコルを使った通信の抽象化
• WebSocketは**セッション層（第5層）**に位置し、HTTPを経由してSocket通信に昇格

Socket通信の種類

Socket通信には主にTCP SocketとUDP Socketの2つの種類があります。これらはトランスポート層で使用されるプロトコルの違いにより、通信の特性が大きく異なります。

TCP Socket vs UDP Socket

TCPとUDPは、それぞれ異なる設計思想に基づいて作られたプロトコルです：

• TCP（Transmission Control Protocol）: 信頼性を最重視した接続指向プロトコル
• UDP（User Datagram Protocol）: 速度とシンプルさを重視したコネクションレスプロトコル

特性	TCP Socket	UDP Socket
接続方式	接続指向（3-way handshake）	コネクションレス
信頼性	高い（再送、順序保証）	低い（ベストエフォート）
速度	比較的遅い（オーバーヘッドあり）	高速（オーバーヘッド少ない）
データ配送保証	保証あり（パケット順序・到達保証）	保証なし（紛失・重複の可能性）
接続状態	ステートフル（接続状態を管理）	ステートレス（接続状態なし）
ヘッダサイズ	20バイト以上	8バイト固定
フロー制御	あり（送信速度調整）	なし
エラー検出・修正	あり（自動再送）	基本的なチェックサムのみ
用途例	Webサーバー、メール、ファイル転送、SSH	ゲーム、動画配信、DNS、IoTセンサー
適用場面	信頼性が重要な通信	リアルタイム性が重要な通信

使い分けの指針

TCP Socketを選ぶべき場面：

• データの完全性が重要（ファイル転送、Webページ、メール）
• 順序が重要な処理（チャットメッセージ、データベース同期）
• 多少の遅延は許容できるが、データ損失は許容できない場合

UDP Socketを選ぶべき場面：

• リアルタイム性が最重要（オンラインゲーム、ライブ配信）
• 少量のデータを高頻度で送信（IoTセンサーデータ、DNS問い合わせ）
• データが多少失われても問題ない、または独自に再送制御を実装する場合

実際の開発では、アプリケーションの要件に応じてプロトコルを選択することが重要です。例えば、リアルタイムゲームではプレイヤーの位置情報にUDPを使い、チャットメッセージにはTCPを使うといったハイブリッド構成も一般的です。

Socket通信のフロー（TCP）

sequenceDiagram
    participant C as クライアント
    participant S as サーバー

    Note over S: サーバー起動
    S->>S: socket() - ソケット作成
    S->>S: bind() - アドレス紐付け
    S->>S: listen() - 接続待機

    Note over C: クライアント接続
    C->>C: socket() - ソケット作成
    C->>S: connect() - 接続要求
    S->>S: accept() - 接続受け入れ
    S-->>C: 接続確立

    Note over C,S: データ通信フェーズ
    C->>S: send() - データ送信
    S->>S: recv() - データ受信
    S->>C: send() - レスポンス送信
    C->>C: recv() - レスポンス受信

    Note over C,S: 接続終了
    C->>S: close() - 接続終了
    S->>S: close() - 接続終了

Loading

各フェーズの詳細

サーバー側の処理

1. socket(): ソケットファイルディスクリプタを作成
2. bind(): ソケットをIPアドレス:ポート番号に紐付け
3. listen(): 接続要求の待機状態に移行
4. accept(): クライアントからの接続を受け入れ

クライアント側の処理

1. socket(): ソケットファイルディスクリプタを作成
2. connect(): サーバーに接続要求を送信

実際のコード例（Node.js/TypeScript）

サーバー側（TCP Socket）

import * as net from 'net';

const server = net.createServer((socket) => {
	console.log('クライアント接続:', socket.remoteAddress);

	// データ受信イベント
	socket.on('data', (data) => {
		console.log('受信:', data.toString());
		socket.write('Echo: ' + data.toString());
	});

	// 接続終了イベント
	socket.on('end', () => {
		console.log('クライアント切断');
	});
});

server.listen(8080, () => {
	console.log('サーバー起動: localhost:8080');
});

クライアント側（TCP Socket）

import * as net from 'net';

const client = new net.Socket();

// サーバーに接続
client.connect(8080, 'localhost', () => {
	console.log('サーバーに接続しました');
	client.write('Hello from client!');
});

// データ受信
client.on('data', (data) => {
	console.log('受信:', data.toString());
	client.destroy(); // 接続終了
});

// 接続終了
client.on('close', () => {
	console.log('接続が閉じられました');
});

SocketとWebSocketの比較

WebSocketとは？

• WebSocket は、**セッション層（第5層）**に属するプロトコルで、
• HTTPハンドシェイクを使って、Socket（TCP）通信に昇格する手段です。

SocketとWebSocketの比較表

項目	Socket	WebSocket
OSI層	主にトランスポート層（第4層）	セッション層（第5層）
ベースプロトコル	TCP/UDP直接利用	HTTP Upgrade経由でTCP利用
初期接続	直接TCP/UDP接続	HTTP Upgradeハンドシェイク
URL形式	IPアドレス:ポート番号	ws://, wss://
通信方式	全二重通信	全二重通信
データ形式	バイナリ/テキスト自由	フレーム形式（バイナリ/テキスト）
ヘッダ情報	自由に定義可能	WebSocketフレームヘッダ
接続確立	connect()関数	WebSocketコンストラクタ
データ送信	send()/write()関数	send()メソッド
データ受信	recv()/read()関数	onmessageイベント
ブラウザ対応	❌ 直接利用不可	✅ ネイティブサポート
サーバー実装	Socket APIで実装	WebSocketライブラリ使用
ファイアウォール	ポート制限あり	HTTP(S)ポート利用で通りやすい
プロキシ対応	制限あり	HTTP Upgradeで対応しやすい
セキュリティ	独自実装が必要	TLS/SSL（wss://）で暗号化
接続維持	手動でハートビート実装	自動的なping/pongフレーム
エラーハンドリング	低レベルエラー処理	高レベルイベント処理
主な用途	サーバー間通信、IoT、ゲームサーバー	ブラウザ-サーバー間リアルタイム通信
学習コスト	高い（低レベルAPI）	中程度（高レベルAPI）
開発効率	低い（詳細制御が必要）	高い（簡単なAPI）

WebSocketの誤解と補足

WebSocketは「Socketを使っているからSocket通信」と混同されがちですが、厳密にはHTTPベースのハンドシェイクによりTCP上に確立される独自プロトコルであり、ブラウザ向けに最適化された仕組みです。そのため、WebSocketはSocket APIとは別物であり、OSI参照モデル上も一段階上の層に位置します。

Socket通信の利点と制限

利点

• 高速: 低レベルAPIによる高速通信
• 柔軟性: プロトコルの自由度が高い
• 効率性: オーバーヘッドが少ない
• 汎用性: 様々なアプリケーションで利用可能

制限

• 複雑性: エラーハンドリングや接続管理が複雑
• ブラウザ制限: Webブラウザから直接利用不可
• ファイアウォール: ポート制限に引っかかりやすい
• 学習コスト: ネットワークプログラミングの知識が必要

実用的な使い分け

Socket通信を選ぶべき場合

• サーバー間通信
• IoTデバイス通信
• ゲームサーバー（UDP）
• 高速データ転送が必要な場合
• カスタムプロトコルの実装

WebSocket通信を選ぶべき場合

• ブラウザ-サーバー間のリアルタイム通信
• チャットアプリケーション
• ライブ配信
• オンラインゲーム（Web版）
• リアルタイムダッシュボード

また、両者を併用するアーキテクチャも存在します。たとえば、IoTバックエンドではデバイスとの通信にSocketを、ユーザーインターフェースとの通信にWebSocketを用いる構成が一般的です。技術選定においては、通信の方向性、信頼性、スピード、ファイアウォール通過性などを考慮する必要があります。

まとめ

Socketはネットワーク通信の基礎となる重要な概念です。トランスポート層での通信を抽象化し、アプリケーションが簡単にネットワーク通信を行えるようにしています。

WebSocketは、このSocket通信をWebブラウザで利用できるように、HTTPプロトコルを経由して実現した上位層のプロトコルです。

どちらも双方向通信という点では共通していますが、用途や制約が大きく異なるため、アプリケーションの要件に応じて適切に選択することが重要です。